2019年度活動報告 西松秀祐

はじめまして。西松 秀祐と申します。
主に映像を用いた、または映像の考え方を用いた作品を制作しています。今回の活動報告は、映像作品ではないのですが、個人的に印象的だった一瞬にまつわる作品について、少し書かせていただきます。

2019年6月から5週間ほどフランスのアビニョンという所にあるEchangeur22というレジデンスにいってきました。そこには自分以外に韓国、フランス、ブラジルからアーティストがきていて、それぞれの滞在制作を、成果発表としてのグループ展示をシャトローゼと呼ばれる修道院で行いました。

レジデンスは制作期間と展示開始日が決まっていて、時間との戦いみたいな所があるのですが、その時の南仏は異常に暑く40度を超えていて、どうしようもなくギンギンに冷えたビールを飲みながら、制作をしていました。

そこで私は通訳の方の協力をへて、日本語の『はし』とアビニョンにあるサン・ベネゼ橋に纏わる映像制作をおこなっていました。

 

(LA Chartreuse)

 

展示一週間ほど前に、だいたい形が見えてきて、間に合うなと確信したあたりで、搬入が始まったのですが、そのあたりで他の作家たちとの相談した結果、空いている部屋にそれぞれ小品を出そうという事が決まりました。

やりましょう!と答えたものの、特に何も用意しているわけでもないし、制作費も、時間も、もう残ってない。そして自分の搬入も終わってないという状況でした。真っ白い壁に何かする。あまりに漠然としていて、その壁を眺めていると頭が真っ白になりました。

最悪映像のコンセプトスケッチでもいいかな?とも考えていたけど、とりあえずその考えを保留し、搬入をしながら、その場でできることを考えようと決意しました。

展示開始2日前に作品の搬入も終わり、落ち着いて壁とにらめっこする時間がはじまりました。

この部屋にふくまれる歴史、時間といったものを素材、題材にするには、2日の作業量では間に合わない。この場所で今できることをする。ある意味選択肢が少ない分、判断がしやすい状況だったのかもしれません。

ほこり。虫の死骸。錆びた釘。暖炉。煤。きれいな床石。スポットライト。とりあえず会場にある情報を探しました。

壁をながめ、部屋を見回す。展示開始は明日。徐々にギリギリに何か作るこの状況を作品化できないかな?とか、このプレッシャーをそのまま形にできないかな?とかそういう風に思考が移っていきました。

これでもないあれでもないと思考を重ねるなか、私は結局一本の錆びた釘を壁にうち、それにスポットライトを当てました。

壁に17時10分と、そのときの瞬間が映る様に。

 

(展示風景写真)

 

Last Minute Sculpture はそんな状況で作りました。

この作品制作を通して、得た財産は結構個人的にはあると思います。羅列はしませんが、今後も粘り強く制作をしていきます。

 


 

今年度2年間いた清島アパートを出ることになりました。清島で生活をする中、別府で学んだことを少しここに、まとめてみたいと思います。

別府の魅力は人と人の距離、そして多ジャンルの人が自然と混じり合うコミュニティーにあると思います。
そして別府で生活する中で、やっぱり温泉の魅力にひかれていくのですが、温泉について知っていくと、人の距離感や多ジャンルの密度の関係も繋がってきた様に思いました。

これは友達の受け売りなのですが、じも泉(地域の温泉)と呼ばれるところに毎日同じ温泉にはいりに行く感覚は、「公共の温泉へいく。」というより「自分の家の温泉にいく。」という感覚が強いだろうという理論。
ちょっと自分なりに翻訳すると、公共スペースが初めにあって個人がそれに合わせるという形ではなくて、個人がシェアをすることで、公共スペースが生まれていく感じ。それは人の距離、多ジャンルの密度、につながっているかなと思います。

温泉は誰々さんの家の温泉でもあって、僕の家の温泉でもある。そうやって見ていくと、たしかに夏など半裸で温泉に行く感じや、ほぼパジャマで温泉にいく僕は、家から温泉にいく道を廊下として使ってるのかもしれないなと。

話は少しとびますが、僕は大分県ゆかりの作家、赤瀬川原平がすきです。

赤瀬川原平が建築家の藤森照信に語った分離派というものがあります。(以下 住宅の射程より)

赤瀬川:子供の頃、自分んちには勉強部屋も階段もないのが悔しかった。でも大人になって。
自分んちの居間が三丁目にあって、階段が街はずれにあって、便所が隣町にあってもいいんじゃないかと思い始めた。
家の機能が街の中にバラバラにちらばっていて、みんなが街をザワザワ移動しながら暮らしていると面白い。

赤瀬川原平が育った場所は大分市だったけど、別府にいると彼が言った分離派のことが少し分かるなと思うところがあります。

道は誰かの廊下かもしれない。ドキドキしてきます。別府好きです。

本当にありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です